SACD ハイブリッド

ギレリス晩年のライフワークだった
未完のベートーヴェン:ピアノ・ソナタ録音からのベスト・カップリング。
強靭で透徹したピアニズムが、作曲者の魂を伝える。

 

ベートーヴェン:「エロイカ」変奏曲
ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」、
第23番「熱情」
エミール・ギレリス(ピアノ)



価格:3,143円(税別)
ESSG-90099[SACD Hybrid]
DSD MASTERING
Super Audio CD層:2チャンネル・ステレオ[マルチなし]
美麗豪華・紙製デジパック・パッケージ使用


SOLD OUT!


ギレリスの晩年15年間の演奏を記録したドイツ・グラモフォン

   スヴャトスラフ・リヒテルと並び、20世紀ソ連〜ロシアを代表するピアニスト、 エミール・ギレリス(1916〜1985)。名ピアニストを輩出したウクライナのオデッサ地方の出身であり、名教師ゲンリヒ・ネイガウスに学んだギレリスは、1955年のアメリカ・デビューに際して「鋼鉄のタッチを持つピアニスト」としてセンセーションを巻き起こしました。

 しかしギレリスの本領は、圧倒的なパワーを誇る技巧や、切れ味の鋭さだけではなく、その裏に隠された奥深いピアニズム、そして豊かな音楽性こそが、その芸術の根幹をなしていたのでした。

 特に1970年のザルツブルクでのモーツァルト作品のライヴ録音にはじまり、ギレリスの死の年となった1985年まで続く名門ドイツ・グラモフォンへの一連の録音は、ちょうどギレリスの演奏活動の最後の15年を記録したもので、懐の深いピアニストとしてのギレリスの存在を大きくクローズアップするものでした。
      

 


ギレリス最晩年の「ライフワーク」、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ録音  
 
ヨッフム/ベルリン・フィルと共演したブラームスのピアノ協奏曲2曲、グリーグの抒情小曲集など、この15年間に録音されたギレリスのドイツ・グラモフォンへのアルバムはどれもが歴史的名盤と称されるべき内容のものですが、その中でも1972年から1985年まで息長く継続された「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集」の録音は、ギレリス最大の遺産ともいうべき価値を持つ名演です。

 ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音を目指しながら、32曲のうち5曲を残して未完に終わったこの録音から、初期に録音された2曲のソナタと、後半に録音された変奏曲の大曲1曲をカップリングしたのが今回Super Audio CDハイブリッド化されるアルバムです。



プロジェクト初期の「ワルトシュタイン」「熱情」そして、後半の「エロイカ変奏曲」     
 
 この一連のベートーヴェン録音の劈頭を飾ったのが1972年1月に録音され後期の入口に立つ第28番とのカップリングで発売された「ワルトシュタイン」でした。

 第1楽章のパワフルな推進力、深く沈潜してゆく第2楽章の序奏部、その緊張から解き放たれてゆく主部の輝かしい対比が見事です。1973年録音の「熱情」は、第6番とのカップリングで発売され、ギレリスにとっても2度目の同曲録音となったものですが、第1楽章や第3楽章の息詰まるような迫力、そして第2楽章の滋味深い変奏の綾が、作品の魅力を伝えています。

 そして1980年にデジタル収録された「エロイカ変奏曲」では、音に一層スケール感が増しつつ、個々の変奏曲のキャラクターを多彩に表出して見せるギレリスの手腕が見事に刻印されています。



最高の状態でのSuper Audio CDハイブリッド化が実現    
 
 これら3曲の録音は、いずれもギレリスの輝かしくも深みのあるピアノの音色を比較的大きめの音像で再現していますが、興味深いのは録音会場が全て異なること。「ワルトシュタイン」はドイツ・グラモフォンが1960年代から頻繁に使用しているベルリンのUFAスタジオ(カラヤンやクーベリック指揮の映像作品物収録も行なわれたスタジオ)で収録され、「熱情」はベルリン西部のシュパンダウ地区にあるヨハネ修道院が使われています。

 また1980年のデジタル録音である「エロイカ変奏曲」は、音楽ファンにもなじみの深いベルリンのイエス・キリスト教会での収録です。

 響きもサイズも異なる3つの会場で録音されたのにもかかわらず、3曲の録音が一つの統一されたイメージを感じさせるのは、ドイツ・グラモフォンの録音のポリシーが確立していたことの証左といえるでしょう。

 今回のSuper Audio CDハイブリッド化に当たっては、これまでのエソテリック企画同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業が行われています。

 特にDSDマスタリングにあたっては、DAコンバーターとルビジウムクロックジェネレーターに、入念に調整されたエソテリック・ブランドの最高級機材を投入、また同社のMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、貴重な音楽情報を余すところなくディスク化することができました。



『ギレリスの彫琢された音の美しさが、ベートーヴェンの音楽の核心に深く迫っている』    
 
 『ここに聴くギレリスのベートーヴェンでは、確固たる構築力に支えられた、表現力豊かな演奏が展開されている。細かなところまで配慮が行き届き、表現にメリハリが効いており、緩徐楽章における瞑想的な美しさなども印象に残る。
また「鋼鉄のタッチ」とも呼ばれる彼ならではの力強いタッチが、録音で鮮明に捉えられている。』
(原明美、『レコード芸術別冊・クラシック不滅の名盤-究極の100タイトル』) 

 
『この「熱情」ソナタを録音した1973年頃のギレリスは、それまでに長い時間をかけて辿ってきた道のりの全てを集大成したような時期にあったようだ。
その個々の音の響きは実に強靭で、その構えは堂々としており、スケールが大きい。なよなよとした情緒的要素は入り込もうとにも入り込む隙が見いだせないほど、全体は力強く張り詰めている。』
(吉井亜彦、『レコード芸術別冊・クラシック・レコード・ブックVOL.5器楽曲編』、1985年) 

 
『強靭なタッチと輝かしい音、そして男性的で力強いスケールの大きさがギレリスの魅力だが、その特徴が素晴らしく発揮されているのは「エロイカ変奏曲」である。この作品に込められたさまざまな変奏技法が実に明快に、そして多彩に表現されている。
しかも全体の構成も堅固で、ギレリスの表現力の幅広さに感心させられる。かといってとくに個性的な表現を取っているわけではなく、きわめて正統的で、強い意志と強固な自信を感じる。』
(福本健、『レコード芸術別冊・クラシック・レコード・ブックVOL.5器楽曲編』、1985年) 

 
『ついに未完に終わったギレリスのベートーヴェンのソナタ・シリーズは、このピアニストの真価をあらためて認識させたが、その中でも「ワルトシュタイン」は特にすぐれている。ギレリスの彫琢された音の美しさが、優れた録音によって一段と磨きがかけられたように聞こえるのもうれしい。
そしてその徹底した音によってベートーヴェンの音楽の核心に深く迫っている。全曲にみなぎる緊張感は凄まじく、一瞬たりとも誌関するところはなく、きわめて清澄な抒情を表出するあたり、ギレリスの真骨頂と言えよう。』
(浅里公三、『レコード芸術別冊・クラシック・レコード・ブックVOL.5器楽曲編』、1985年)

 


■収録曲

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
自作の主題による15の変奏曲とフーガ
変ホ長調作品35「エロイカ変奏曲」
1. 主題のバスによる導入:アレグロ・ヴィヴァーチェ
2. 主題
3. 変奏 I
4. 変奏 II
5. 変奏 III
6. 変奏 IV
7. 変奏 V
8. 変奏 VI
9. 変奏 VII:8度のカノン
10. 変奏 VIII
11. 変奏 IX
12. 変奏 X
13. 変奏 XI
14. 変奏 XII
15. 変奏 XIII
16. 変奏 XIV:ミノーレ
17. 変奏X V:マッジョーレ、ラルゴ
18. コーダ
19. フーガ風のフィナーレ、アレグロ・コン・ブリオ

ピアノ・ソナタ第21番ハ長調作品53「ワルトシュタイン」
20. 第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ
21. 第2楽章 序奏、アダージョ・モルト
22. 第3楽章 ロンド、アレグロ・モデラート〜プレスティッシモ

ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調作品57「熱情」
23. 第1楽章 アレグロ・アッサイ
24. 第2楽章 アンダンテ・コン・モート
25. 第3楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ〜プレスト


[演奏]
エミール・ギレリス(ピアノ)

[録音] 1980年9月12日〜15日、ベルリン、イエス・キリスト教会
(作品35「エロイカ変奏曲」) * デジタル・レコーディング

1972年1月9日〜13日、ベルリン、UFAスタジオ
(作品53「ワルトシュタイン」)

1973年6月12日〜16日、ベルリン、シュパンダウ、ヨハネ修道院
(作品57「熱情」)



[日本盤初出] 作品35「エロイカ変奏曲」=28MG0244(1982年6月)
作品53「ワルトシュタイン」=MG2375(1972年12月)
作品57「熱情」=2530406(直輸入盤/1974年4月)

[オリジナル/プロデューサー] ハンノ・リンケ(作品35「エロイカ変奏曲」)、
ギュンター・ブレースト(作品53「ワルトシュタイン」、作品57「熱情」)

[オリジナル/プロデューサー] ヴェルナー・マイヤー(作品35「エロイカ変奏曲」)、
ギュンター・ブレースト(作品53「ワルトシュタイン」、作品57「熱情」)

[オリジナル/バランス・エンジニア] クラウス・シャイベ
(作品57「熱情」、作品35「エロイカ変奏曲」)、
ハンス=ペーター・シュヴァイクマン(作品53「ワルトシュタイン」)

[オリジナル/レコーディング・エンジニア] クラウス・ベーレンス
(作品35「エロイカ変奏曲」)、
ハンス=ルドルフ・ミューラー(作品53「ワルトシュタイン」)、
フォルカー・マルティン(作品57「熱情」)

[Super Audio CDプロデューサー] 大間知基彰(エソテリック株式会社)

[Super Audio CDリマスタリング・エンジニア] 杉本一家
(ビクタークリエイティブメディア株式会社、マスタリングセンター)

[Super Audio CDオーサリング] 藤田厚夫(有限会社エフ)
[解説] 諸石幸生 渡邊学而
[企画/販売] エソテリック株式会社 < BR> [企画/協力] 東京電化株式会社