アルト・サックス奏者キャノンボール・アダレイのリーダー作ですが、ほとんどの人がマイルス・デイヴィスこそ主役の1枚と考えているほどに、マイルスのトランペットが印象的な作品です。
50年代のブルーノート名盤がひしめくレコード番号1500番シリーズ、その第1回目のリーダーがマイルス・デイヴィス。そうした関係もあり、アルフレッド・ライオンはもう一度マイルスのレコードを作りたいと願っていました。
ところが彼は大手CBSと契約の身。思案したライオン氏はマイルスのグループの一員だったキャノンボール・アダレイに白羽の矢を立てました。彼をリーダーにして、マイルスをゲストに呼ぶ。冒頭の〈枯葉〉からマイルスは全開、最高のプレイを披露します。しかしキャノンボールも負けてはいません。得意のバラードで彼の本領を発揮し、ここに不朽の名盤が誕生したのです。
ちなみにここで採り上げられた〈枯葉〉は、シャンソンの曲ということはよく知られていますが、マイルスのこのミュート・プレイ以前、あまりジャズでは演奏されませんでした。この演奏がきっかけとなり、ビル・エヴァンスなど多くのミュージシャンが採り上げるようになりました。
なお余談ですが、マスター・テープの箱に“マイルス・クインテット”とクレジットしてしまったところに、この作品に対するアルフレッド・ライオンの心情が移しだされている、とも言えるでしょう。
◆ マイルスのミュートによる絶妙な表現が素晴らしい
「ブルーノートを代表する1枚であるばかりでなく、ハード・バップの名作としても知られる永遠ベスト・セラー。作品の魅力を一身に背負っているのはマイルスだ。〈枯葉〉における彼の絶妙な表現には恐れいる。もちろんキャノンボールも、軽妙なタッチのハンク・ジョーンズも素晴らしい。」
(ゴールド・ディスク事典)
「ジャズ・ファンなら誰でもが知っている超人気盤。
キャノンボール名義のリーダー作だが、実質上のリーダーはマイルス、というアルバム紹介のフレーズがあるが、たしかにその通りでマイルスのミュート・プレイが冴える〈枯葉〉がハイライトだし、当時の力関係からしてマイルスが主導権を握っていただろうことは当然だが、だからといって断じてキャノンボールはサシミのツマなんかではない。キャノンボールは〈ダンシング・イン・ザ・ダーク〉で持ち味を発揮したソウルフルなソロを聴かせる。」
(完全新版モダン・ジャズ名盤500)
◆Super Audio CD ハイブリッドの音質
現在でも通用するジャズ・サウンドを提供していた本作ですが、Super Audio
CDハイブリッド盤を聴くとさらなる音質の向上が得られ、硬質なトランペットのミュート演奏を存分に楽しめるサウンドに生まれ変わっています。
マイルス・デイヴィスの顔が見えてくるようです。作品自体ではキャノンボール・アダレイも素晴らしい演奏を展開していますが、音質的にはどうしてもマイルスに耳が行ってしまいます。
冒頭〈枯葉〉のミュートはもちろん、トラック4のブルースでも、ミュートを外したトランペット本来の音色に心が奪われてしまいます。ピアノは特有の限られた帯域ですが、不自然さはそれほどなく、ベース、ドラムスもレンジ感豊かで、バッキングとしては文句のないサウンドを提供してくれます。
■収録曲
枯葉
ラヴ・フォー・セイル
サムシン・エルス
ワン・フォー・ダディ・オー
ダンシング・イン・ザ・ダーク
マイルス・デイヴィス(tp)、
キャノンボール・アダレイ(as)、
ハンク・ジョーンズ(p)、
サム・ジョーンズ(b)、
アート・ブレイキー(ds)
[録音] 1958年3月9日
[オリジナル・レコーディング]
[プロデューサー] アルフレッド・ライオン
[レコーディング・エンジニア] ルディ・ヴァン・ゲルダー
[SACDプロデューサー] 大間知基彰(エソテリック株式会社)
[SACDリマスタリング・エンジニア]
杉本一家
(ビクタークリエイティブメディア株式会社 マスタリングセンター)
[SACDオーサリング]
藤田厚夫(有限会社エフ)
[解説] 野沢龍介 油井正一
[企画/販売] エソテリック株式会社
[企画/協力]
東京電化株式会社